2009年11月4日水曜日

私のお気に入り 【居酒屋・京都・三条・漁師小屋大漁】
情報提供:isenokami55
二次会で行った海鮮料理の店(漁師小屋大漁)が非常によろしくて…。酒が進む進む(^^ 
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2009年11月3日火曜日

アンダルシアの名も知らぬ楽器 中編

前編より続く


盛んに不思議がる東洋人が面白いのか、そのみすぼらしい親爺は、ゆっくりと音の出し方を栄太郎に見せてくれた。構造は単純、40センチほどの竹に、上から三分の二ほどまで割れ目を入れただけのものだった。

その竹を左手に持って、右手で竹の底を横から弾くのだ。すると、割れた竹の上部が開いて閉じて音を生む。割れ目の最後に膨らみを作っているのは、音の出をスムーズにする為だろう。実に単純で原始的な打楽器(?)だった。

そんなもので、あの豊かな音色を生み出している。感嘆の声と共に拍手を送ると、親爺はカウンターを指して何か盛んに言う。何度か聞き直してみると、ビールを奢れということらしい。まだ彼の演奏に酔っていた栄太郎は、躊躇なく生ビールを二つ頼み、盛大に乾杯した。

親爺は、いかにも美味そうに半分ほどを一気に飲むと、その奇妙な楽器で、また一曲奏でてくれた。今度は目の前で演奏しているのだから、その手の動きと見極めようとしたが、いくら目を凝らしても判らない。

ひとたび親爺の手に掛かると、ただの竹の筒が高らかな歌声を挙げる。その乾いた力強い音色が、素朴で情熱的なセビジャーナスのリズムに嵌って、周りの空間を呑み込む。栄太郎は、異邦人であることを忘れ、その音に身を任せた。


言葉が通じなくても感動は通じる。何度かの乾杯を繰り返し、二人は国も育ちも越え、年齢の差すら忘れて意気投合していた。しかし、店にあるビールを飲み尽くす覚悟を決めた頃、一人の青年が親爺を迎えに来た。宴の終わりだった。

浅黒い肌と彫りの深い顔をした青年は、事情を知るとビールの礼を何度も繰り返す。親爺は少しグズったが、やがて青年の言葉に従い、大人しく帰り始めた。しかし、ふと思い出したように奇声を挙げ、栄太郎の方に向かって何かを大声で言った。


ただでさえスペイン語は判らないのに、酔っ払った親爺のだみ声では、聞き取ることさえ出来ない。すると、親爺を抱えるようにしていた青年が、英語でツゥモローと何度か繰り返すのが聞こえた。ツゥモロー? 明日? また明日の夜も来るということなのだろうか?